小原雅夫の仕事



  函館の高層マンション反対運動(2)

                         

          小原雅夫(画家)

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第2章 函館市民に呼びかけてみる
運動の仲間が「函館の景観保護運動」へと舵を切る事を認めてくれたので、早速市民全体に訴える手段を考えた。チラシを全戸に入れる事は大変だ、戸数は約12万ある。街頭で配布する事もマスコミ的には絵になるので検討の価値はある。・・・しかし誰かが、地元紙の市内版の所に投書欄があるよと言い出した。・・・そうだ、よくある論説蘭みたいに沢山書けるところだ。
あそこなら無料だし市民の多数が見てくれる。
私は文を書くのは嫌いではない上、言い出しっぺでもあったので、じゃあと気軽に引き受けた。


4月4日新聞紙上で訴える



市民の反応
これは朝刊の記事だったのだが、もうその日から沢山の励ましの電話が来ることになった。真っ先に電話をくださった浜島先生は勿論、見知らぬ方々からも、「全く同感、よく言って下さいました」「私もお手伝いします、一緒にやりましょう」
そして手紙もちらほらと来るようになった。…何という反応の良さ!
沢山の市民の方が、私同様、マンションによる景観破壊に怒りを感じていたのだ、そして誰か始めてくれないかと待ち望んでいた・・・・
この時からの運動は、今振り返ると、ベルトコンベヤーに載せられて疾走しているかのようであった。次々とマンションは計画される、それらに対する対応を考える、陳情・請願・ビラ・署名簿・抗議文等々の文章を作る、行動する、マスコミに対応する、心配な空き地を探して歩く・・・・
勿論私は公立高校の数学の教師であり、演劇部の顧問であり、趣味で絵も描いている。さすが、絵の方はお休みとなったが、授業や部活は手を抜くことは出来ないし、性分として手を抜けないのだ。生徒は熱血先生と言うが…

4月7日第2弾 「元町31番地のマンション建設に反対する会」結成される
知人が私の顔を見てニヤッとして「小原さん、私達も始めるよ」と話しかけてきた。
聞くと、彼の友人の三浦さんという方の周囲が地上げにあい悩んでいたが、私の記事を見て、自分たちもやろうという気になったそう。以前から旧知の市会議員に話してはいたが、全て合法的だろうから難しいねーで終わっていたとか。
話しは前後するが、4日に浜島先生から電話があり、すぐ会って相談しましょうとなった。5日に古希庵というレストランで会合を持ち、西部地区の高層マンションに反対する人たちは多いはずで私が声をかけるから連合して運動しませんかという提案。・・・・反対する人が多いほど運動というのは力を持つわけで、願っても無いご提案です。よろしくお願いします。 11日に皆で集まりましょう。
となっていたのだ。会長となっている三浦さんにその旨お伝えください、と依頼。

 

 


4月11日「函館西部地区の高層建築を考える会」結成
会場に行ってみると、浜島先生以外見知らぬ人ばかりであったが、6団体の志を同じくする人達が集まっていた。新しく「反対する会」を作った三浦さんも見えていた。
集まりの趣旨は明快で、西部地区の高層マンションの建設には立ち向かっていきましょう。そのために皆で団結しましょうということだ。
これについて報道された記事(下)はいかにも小さなものだが、その後に展開していく運動の局面ではしばしばとても大きな紙面にもなった。今から思うとこの小ささが何故かほほえましい。
きっと新聞社もあまり期待していなかったと思う。
この場で皆の団結を約束し、役割と今後の計画相談した。
会の名は「函館西部地区の高層建築を考える会」とし
会長は浜島国四郎氏、副会長は三浦欣一氏と私:小原雅夫、事務局長太田誠一氏となった。
この時私からの希望として、「このような連合体としていろいろな局面で協力し合うという事は賛成ですが、個々のグループの創意あふれる運動までは縛らない方がいい、各自自由にやりましょう、互いに刺激し合って」
これは了解され、取り敢えず4月17日に皆で市と市議会に陳情する事が決まった。



この時点で「函館西部地区の高層建築を考える会」に参集した6団体は以下の通りである。
・谷地頭15-7のマンションを考える会(代表:小原雅夫)
・元町地区のマンション建設に反対する会(代表世話人:三浦欣一)
・函館の歴史的風土を守る会(会長:浜島国四郎)
・元町倶楽部(村岡武司)
・函館民宿観光協会(会長:長島道尋)
・末広町のマンションを考える会(仮称)
※上記の内、最初の二つは実際に地上げ等に悩んでいる住民組織。
 後は、理念として西部地区の高層化に疑問を呈している組織である。



ここでこの新たな会の役員について紹介しておこう。
浜島氏は先に述べたように、工業高校の建築科を定年退職した元先生で、教え子の建築士も多く、函館の建築会では名の知れた存在で知己も多い。函館市の当時の景観審議会の委員を務めていた。温かな性格で人をまとめるのが上手で、かつ緻密さと豪放さを併せ持っている。私の提案は殆ど了解してくれた。
三浦さんはちょっと見、律儀な大工さんといった風情で誠実さと根性が光っている。運動の最初は陳情文の書き方をアドバイスしたり文章を見てあげたりした。
太田誠一さんは呉服を訪問販売している比較的自由な人で映画が大好き。マスコミ大好きで、そちらの知人も多く、報道方面との連絡に動いてくれた。
後になると運動する会の数も増え、それらはそれぞれの会独自で活発に運動したが、陳情や会合、ビラ撒き、催し物、報告会では一緒に行動する事も多くなり、そんな時の考える会としての印刷物の文章造りと印刷は殆ど私が一手に行っていた。その関係で30年後の今でも資料が沢山手元に残っているのだ。
いつしか、私と事務局長とでアイディアを出して計画し、それを会長に承認してもらって皆に提案するといった流れが出来ていった。
浜島先生のような、歴風会の会長で、景観行政や伝統的建造物に詳しく多方面に知己が広い人が居てくれたことは対市民,対市役所で役立った。ただ、抗議文やビラ、陳情書、要望書等々を出す時、それに名を連ねる事は、かつての彼の仲間や同業者と対立しているように見える事もあり、我々周囲の者は心配したが、本人は一向に気にしなかった。
それと、役員ではなかったが、市役所や市議会への働きかけにおいて大変に尽力して下さったのが市議会議員の石井満さんである。彼は穏やかなジェントルマンで信頼出来る人だった。彼には大変に感謝している。17日の陳情で、市では助役が、市議会では副議長が対応してくれたのも石井さんの交渉力によるのだ。勿論、政策決定にも細かく目を光らし住民の要望が適うようにいろいろな所で働いてくれた。

我々の運動が対業者であれば大変な消耗戦となったし個々別々の運動になってしまったが、それだけでなく、「函館市の景観を守る」という観点から、連合して対市役所の運動をメインと出来たのも市議会議員の中に我々の味方が沢山居たからである。石井議員の他、上谷俊夫議員、金盛よしひで議員も頑張ってくれた。

4月15日毎日新聞の記事

        ここでも住民運動が取り上げられている




4月17日連合して第1回目の陳情を行う

この日の陳情は総勢50名の参加で、市役所職員曰く市役所始まって以来の大陳情団だそうで、市役所の面々も驚いた風であった。石井満議員の案内で、市議会は杉山副議長に、市役所は増田助役に会って我々の声を聴いてもらった。陳情は3つのグループがそれぞれ出し、それらの個々は下方にのせてある。内容的に重複している部分もあるが、微妙に異なっている所もあるので、下に陳情のまとめとして載せた。また、新聞各社の記事も全て載せた。





90.4.17陳情書三浦欣一
90.4.17陳情書小原雅

90.4.17陳情書浜島国四郎


4月18日 新聞報道   (50余名の陳情団への反応)

         90.4.18朝日新聞の報道



90.4.18北海道新聞
90.4.18毎日新聞
90.4.18読売新聞


         90.4.20日刊政経情報紙



市の方では、「法律の枠があり難しい」等と消極的な返答であったが、後から分かった事であるが、この直後職員を先進地熱海等へ派遣して情報収集と対応を学習させている。
確かに、市の方から私権を制限する事は難しい事であり慎重になるのは理解できる。しかし、沢山の市民が切実な声を上げて要求した結果の制限は市からの一方的な制限とは訳が違う。市にとっても立派な言い訳となるはずだ。
市の方は建築協定を口にするが、これは所有者達全員で決める事なので、高層マンションの場合は利用は困難である。

建築協定とは、住宅地としての環境や商店街として利便を高度に維持増進する等のため、市町村が条例で建築協定を締結できる旨を定めた区域内において、その区域内の土地の所有者および借地権を有する者が、自主的にその区域内のおける建築物の敷地、位置、構造、用途、形態、意匠または建築設備に関する基準を定めたものである。(建築基準法第69条

ここまでの流れから分かるように、4月4日に私が新聞で訴えて以来、新聞によるマンション報道が一挙に増加した。普段、あまりニュースが無い土地柄であったが、マスコミが一気に食いついてきた観がある。しかし、バブルが増大し続け、市民の中にももういい加減にしてよ!といった気分が蔓延していたのも事実だと思う。その意味で、運動開始は実に良いタイミングだったと思う。
                                                                                                                                                                     つづく

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